今回はそのランチェスター戦略の基礎知識について解説します。この戦略を理解して、あなたが取るべき戦略に役立ててください。
ランチェスター戦略とは?
ランチェスター戦略とは、第一次世界大戦で生まれた軍事戦略を元に日本で研究され、故・田岡信夫先生が体系化したマーケティング理論です。
この戦略は、売上を目標とするのではなく市場シェアを判断基準とした戦い方を指導原理としています。
ほとんどの業界が飽和状態となっている現状では必然的に競合とのシェア争いになります。
このような状況でこそランチェスター戦略が活きてきます。
強者と弱者の定義
ランチェスター戦略には強者と弱者の定義があります。
強者とは業界シェア26.1%以上の1位のこと。弱者は業界における2位以下の企業すべてを指します。
1位だとしてもシェアが26.1%以下であれば、それは見せかけの強者であり、弱者ということになります。
ランチェスター戦略では規模ではなくシェアで強者か弱者が分かれていきます。
なぜなら、この戦略は自分より強いライバルに勝つ方法だからです。
弱者と強者の戦略
ランチェスター法則は戦争の法則でした。ではこの戦争の理論をビジネスに置き換えた場合、
弱者の基本戦略となる「差別化戦略」、強者の基本戦略となる「ミート戦略」となります。
この2つは180度異なる、相反する戦略となります。ひとつの事例を上げてみましょう。
弱者の基本戦略「差別化戦略」
既に多くの人に愛飲されている「ヘルシア緑茶」。2013年に発売された花王初の飲料水でありながら、伊藤園の独断場である緑茶市場へ参入しました。
健康志向でお茶系飲料の売上が伸びる中、メタボ対策を前面に打ち出し、圧倒的な差別化となる初の「特定保健用食品」という武器を身につけ、
当初は中高年層の男性(関東・甲信越のコンビにのみ)にターゲットを絞り大きなシェアを獲得しました。
ここで注意をしなければならないのは、
市場地位別に自社のポジション(弱者か強者か?)を判断するということです。
花王は誰もが知る優良企業ですから、強者なのではないかと思う方もいらっしゃると思いますが、
この場合は緑茶市場内での花王のポジションを考えなければなりません。
初の飲料水で緑茶市場に参入ということを考えるといくら花王でもそのポジションは弱者になります。
強者の基本戦略「ミート戦略」
花王の「差別化戦略」に対して伊藤園の取った戦略が強者の「ミート戦略」です。
伊藤園のブランドは「おーいお茶」ですが、「おーいお茶!濃い味」として茶カテキンが多く含まれていること、
「おーいお茶」より「濃い味」を全面に押し出し、全国的な販売網で売り出しました。
花王の差別化戦略を同質化させることで打ち消す、これが強者の「ミート戦略」です。
この事例で弱者と強者の戦略が相反することがご理解頂けると思います。
よくある失敗例
よくある失敗としてあるのが、成功している人のやり方を真似してしまうことです。
成功しているからといって強者のやり方を弱者が真似をしても、勝てるはずがありません。
強者のやり方を真似するのではなく、弱者のやり方を真似しつつ、いい所を2,3個足すようにしましょう。
5大戦略
弱者の基本戦略「差別化戦略」と強者の基本戦略「ミート戦略」はご理解頂けたと思います。
更に詳しく「弱者の5大戦法」をお伝えしていきます。
弱者は「差別化戦略」を基本戦略としながらも、
②接近戦
③一騎討ち戦
④一点集中主義
⑤陽動戦
の5大戦法に分けられます。
⑴局地戦
ビジネス領域や地域を限定することで資源を分散させないようにします。
元々弱者は総合力で劣るわけですから、欲張って手を広げてしまうと資源が分散し、勝てる可能性がなくなってしまいます。
まともに戦って勝ち目のない弱者は勝てる市場を探すか、勝てる市場を作り出すということです。地区に限らず、顧客層や業種なども含みます。
⑵一騎打ち
ビジネスでは敵(=競合)に近づいて戦うという意味ではありません。顧客に近づくという考え方です。
実際に会って顧客の心を掴むような手法で重要顧客に関しては頻度のみならず、滞在時間(商談時間)も多くします。
また卸や代理店などを介さず、エンドユーザーに直接販売するやり方も接近戦です。
そして、わざわざ遠方を攻めるのではなく、地元を攻めるという考え方も接近戦の概念です。
⑶接近戦
まさに1対1の戦いです。
競合の多い市場や顧客を狙うのではなく、
競合が1社しかいない、もしくは少ない市場・顧客を狙います。
複数の競合を相手にするより、1社もしくは少ない競合を相手にする方が勝ち易いのは明らかだと思います。
⑷一点突破主義
重点をおくべきところを決め、そこに力を集中させます。
総合力で劣る弱者は全面戦争で強者に勝つことはできません。
市場や地域を細分化し、業種・顧客・商品等どこに重点を置くのかを決定し注力しなければ、
勝負に勝つどころか現状を打開することもできません。
地域・販売チャネル・客層・ジャンル・商品などマーケティング上のテーマをどこに絞るのか、
セグメンテーション(分類)・ターゲティング・ポジショニングをしていくことです。
⑸陽動戦
「かくらん戦」、敵の裏をかく奇襲戦法です。
相手が思いよらない方法で展開し敵を動揺させます。
アサヒ飲料の「朝専用缶コーヒー」などがこれに該当します。「朝専用」という思いもよらない手法で
圧倒的なシェアを持ったいたジョージア(コカ・コーラ)から缶コーヒーのシェアを奪いました。
缶コーヒーを調査してみると圧倒的に朝(午前中)が多く、購買層はサラリーマンの男性です。
そこに目をつけて「朝専用」としました。
注意すべき5原則
1 簡単にミートされる差別化は差別化ではない
浅い考えでの、なんちゃって差別化ではだめです。賢い強者にあっという間にミートされてしまいます。
あなたがやっている差別化は企業が本気出せばやれることですか?やれないことですか?ここを軸に考えてみましょう。
やってはいけない差別化の一つに価格競争があります。大企業は価格を下げられる体力があるので一瞬にして淘汰されてしまいます。
弱者は価格をあげてでも付加価値を高め、それでも買いたいという人に買ってもらうべきです。
2 顧客に評価されない差別化は差別化ではない
自己満足では意味がありません。変わったものを出さないとと思う気持ちからトリッキーになってしまうこともあります。
客に望まれない差別化にこだわってしまうのは厳禁です。
弱者はお客様の声を聞いて、ニーズあるところに一点突破していくことが大事になります。
3 差別化は掛け算で相乗効果
差別化は一つではありません。ちょっとしたプラスのポイントしか持ち合わせていなくても、
それぞれをかけ合わせるとオンリーワン変化します。
ミートされない差別化が思い浮かばない人はちょっとした差別化をかけ合わせることを意識してみてください。
4 他業界の常識は自業界の非常識
他業種の常識を持ち込むことで差別化を図れることがあります。
自分の業界だけを見ていると視野が狭くなります。
今まで常識だと思っていたことが、他業界に目を向ければ非常識であることが多くあります。
当たり前と思っていることに疑問を持つことが大切です。
ちなみに通信業界の革命となった光ファイバーは、ガラス業界のコーニング社が開発したものです。
5 小技も大切だが、信念のない小手先は通用しない
小手先のテクニックよりも、実は理念が大事です。
理念がなければ、やりがいを感じたり、社会的責任感、使命感を持って、経営することはできません。
何としても実現したい想いが、生み出す情熱やエネルギーが、自己を成長させ、会社を発展させる原動力になります。
実際の流れ<市場参入の5W1H>
新規に市場に参入する際は必ず「5W1H」で検討しましょう。
1.WHY(なぜ、それをやるのか?):市場参入する意義を明確にしておきましょう。
2.WHAT(何をするのか?):どんな形で参入するのか?差別化や勝てる要素は何か?
3.WHERE(どこに参入するのか?):どの市場(または領域等)に参入するのか?
4.WHO(狙いは誰なのか?敵は誰なのか?):ターゲットとする顧客は誰か?どんな競合がいるのか?
5.WHEN(いつ参入?どんな市場時期?):参入のタイミングとライフサイクル時期は?
6.HOW(どのように市場に参入するのか?):具体的な4P戦略や営業戦略は?
グーチョキパー理論
人の一生と同じように製品が世に出て消えるまでにはライフサイクルというものがあります。
一般的に導入期・成長期・成熟期・飽和期・衰退期の5期に区分され、その時期ごとに戦略を転換していかなければなりません。
これをランチェスター戦略では、ジャンケンに例えて、その時期ごとに「グーの戦略」・「パーの戦略」・「チョキの戦略」というように表現しています。
「グー戦略」
まず”導入期”は、「グーの戦略」です。
これは、「握りこぶしを鋭く突き刺すが如く参入せよ」という意味です。
新規で市場に参入する際は、大きく風呂敷を広げず、まずは小さくても良いので確実に市場を押さえるということを意識します。
「グーの戦略」に求められることは、差別化と販売地域や販売チャネルの集中です。
いきなりヒットするということは稀で、一般に伸びは緩やかです。
ある意味テスト期間として捉え、トライ&エラーを繰り返し、ブラッシュアップしていきましょう。
「パー戦略」
やがて、他社が参入し、競争が本格化すれば”成長期”が訪れます。
成長期は、市場自体が拡大していき、競合の参入も増え競争状況も激化します。
その中でいかにパイをとっていくかという陣取り合戦ともいえるでしょう。
したがって、この時期の戦略は、手のひらを“パーッ”と広げるが如く、戦線を広げていきます。
このイメージはまさに「パーの戦略」です。握っていたこぶしを「パー」のように広げていくとは、
商品ライン・販売チャネル・顧客層の拡大などが求められます。つまり、強者の戦略で戦うのが原則となります。
「チョキ戦略」
その後、伸び率が鈍化してくれば成長していても成熟とみなし、戦略を転換しなくてはなりません。その際は勝てる分野・領域に集中します。
“パーッ”と広がった戦線を“チョキッ”とカットするが如く生産性を求めます。
この場合は、もはや成長が見込めない、伸びない市場を奪い合うので、ゼロサムゲームの“勝負型”の競争状況となります。
つまり、勝ち組負け組がきっちり分かれる状況が出来上がります。
スパッと撤退することは勇気がいることですが、この時期に求められることはベターなタイミングでの意思決定です。
この時の表現をスパッとカットするイメージから「チョキの戦略」という表現を使っています。
さて、成熟期になると利益は増えますが、利益のピークは売上のピークより前に来ます。
したがって、商品、客層、顧客、地域、チャネルの売れ行きがバラつきますくので、選択と集中を心がけてください。
近年、機能性や品質での差はつきにくく、利便性や付加サービスで差別化することが求められています。
それでも差がつかなければ値崩れがはじまり、利益は減り始めます。この時が、「チョキ」への戦略転換期となるでしょう。
最後に
今まで述べてきたのは、ランチェスター戦略の基本、うんちくに当たる部分なので、
これだけでは実践で成果を上げるのは難しいと思いますが、「なるほど!」と思って頂ける理論や考え方もあったと思います。
とは言え、故・田岡信夫先生がランチェスター戦略を確立されてから既に40年の時が経とうとしています。
すると中には「ランチェスター戦略は古いから使えないのでは?」と言うような人もいますが、結論から言うとこれは大きな間違いです。
なぜならランチェスター戦略は、「企業間競争における勝ち方の原理原則」 を説いているからです。
原理原則は不変の真理なので、時代が流れても変わることはありません。
更にランチェスター戦略研究学会など、大学教授など識者が多く集まる会で最新のビジネスにおいても有用に活用できるよう常に磨かれています。
そして「弱者必勝の法則」とも言われているように、これからの時代において実践して頂きたい戦略です。